2024年のVTuber業界 「Xデー」の扉は開かれるか

2024年のVTuber業界 「Xデー」の扉は開かれるか
画像引用元:プレスリリース/LinkedIn/X (Twitter)
© 2016 COVER Corp.
© Brave group Inc. など
© 2023 • AKA VIRTUAL
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目の前に迫る「Xデー」

2023年 (令和5年) 12月26日現在、事実上活動を終えられている VTuber キズナアイ (所属:キズナアイ株式会社/無期限活動休止中) さんの運営を行っていた Activ8株式会社代表の 大坂武史さんは2019年 (平成31年) 2月、「やがて、バーチャルタレントは、人間のタレントやインフルエンサーと同じように見られる」として、そのXデーが「5年後」であると予測しました。

Activ8社は表立った VTuberタレントの運営から身を引き、同社が運営していた キズナアイも事実上活動を終えておりますが、その精神は現在業界で躍進する各事務所・グループ・企業・個人タレントへと引き継がれており、2023年はまさに「VTuberタレントが人間のタレントやインフルエンサーに並ぶ存在として見られるための重要な1年」になりました。来年は間違いなく「Xデー」を迎えると予想されるでしょう。

「Xデー」の扉を開こうとするプレイヤーたち

ホロライブプロダクション/カバー株式会社

その「Xデー」の扉を開く可能性が最も高いのは、現在業界最大手の一角として所属タレントが躍進し続けており、人間のタレントやインフルエンサーに迫る存在をうかがう ホロライブプロダクション及び運営元の カバー株式会社でしょう。

同社は Activ8社と同じ黎明期より VTuber業界に携わり、2017年 (平成29年) デビュー世代の古参タレントである ときのそらさんを始まりに ホロライブプロダクションを成長させてきたサクセスストーリーを持ち、かつて キズナアイさんが行っていた黎明期の方向性を今も内包し、そのDNAを確かに引き継いだ展開を進めていることがうかがえます。

そのホロライブプロダクションでは 白上フブキさん、宝鐘マリンさん、星街すいせいさんなど数多くの所属タレントがそれぞれ才能を発揮し、各種メディアへの出演や、企業・自治体とのコラボレーションを次々と果たしており、従来の VTuber視聴者・ファンにとどまらない規模まで広がりを見せていることから、2023年の時点でかなり「Xデー」に近づいていると言えるでしょう。

ホロライブプロダクションと カバー社では2024年、hololive 5th fes.の多面ライブや メタバースサービス「ホロアース」などの新たな挑戦が控えております。タレントの皆様の更なる活躍、確かな技術的投資の継続といった同事務所・同社の取り組みが続けば「人間のタレントやインフルエンサーと同じように見られる」Xデーの扉を開く可能性は高まるでしょう。

株式会社Brave group

2024年の 株式会社Brave groupは、ホロライブプロダクション/カバー社に並ぶか、それ以上の躍進も期待されるポテンシャルを発揮する可能性があるでしょう。

Brave group社の VTuber事業は、かつての「ゲーム部プロジェクト」に対する非難などにより一時は瀬戸際に追い込まれましたが、そうした状況でも今日の将来を見据えた将来への投資や信頼回復に努め、かつて同社に厳しい目線を向けるオリジナル楽曲をライブで披露された HIMEHINA (ヒメヒナ) 運営元の 株式会社LaRa (Studio LaRa) とも手を取り合う関係を築くに至りました。

一方で、それまで同社運営であった あおぎり高校が viviON社に移管される出来事もございました。

こうした地道な取り組みが実り、今や同社は大手の一角へと浮上。筆頭の ぶいすぽっ!は4月に所属タレント平均チャンネル登録者数が国内2位に浮上したのに加え、新人タレントの反響も国内では ホロライブプロダクションに続く勢いを見せるまでに至っております。

資金調達による思い切った事業展開に積極的であり、海外では現地に事務所を設立するなど、今年最も新規展開に力を入れた企業と言えるでしょう。2024年は今年を上回る躍進を果たす可能性が高く、VTuber業界における最大手の一角として見なされる可能性も考えられるでしょう。

海外発の事務所・グループ・企業

更に今年は、海外発の事務所・グループ・企業の躍進も大いに注目されました。

コロナ禍 (新型コロナウイルスのパンデミック) が終息し、海外では VTuber視聴者・ファンの皆様がコロナ時より減少するなどの影響が見られましたが、ここにきて回復、そして更なる躍進もうかがう状況となっております。

特に東南アジア発の事務所・グループ・企業の躍進が目覚ましく、インドネシア (事業所は日本) の AKA Virtual、タイの Algorhythm Projectなどの新興事務所が急速に頭角を現しております。イスラエル/英語圏の idol社、カナダの Phase-Connectも今年存在を大きく高めました。

これらのタレントは日本のタレントに並ぶか、それを上回る登録者数・再生数・視聴者数を記録するのも珍しくなくなっており、来年は日本の有力タレントや事務所と肩を並べる存在になってくる可能性もあるでしょう。

「Xデー」に向けた課題

WACTORプロダクション

そして「人間のタレントやインフルエンサーと同じように見られる」ということは、雇用環境面においても同じことを意味します。

今年初め、WACTORプロダクションにおける中南米タレントの雇用問題が表面化。同事務所では過去にも不自然に活動を休止するタレントが相次いでおり、一部視聴者・ファンの皆様の間で不信・不満がくすぶっておりましたが、人気タレントである ヒナミソラ (Hina Misora) さんの活動停止によりそれらがピークに達した形となりました。

更に WACTORプロダクションは、ヒナミソラさんの演者/ボイスモデルに関する個人情報を開示し、更に法的措置を行うと発表し、多くの視聴者・ファンの皆様からの批判を招きました。

ヒナミソラさんはこれらに屈することなく、個人タレント Meicaさんとして活動を再開。今日では中南米の人気タレントの1人として、同じく WACTORプロダクションから身を引いた仲間と共に活動を続けられております。

そして、こうしたWACTORプロダクションを巡る一連の問題は、後述の にじさんじプロジェクト及び ANYCOLOR社への、主に海外を中心とする厳しい批判にも影響を及ぼすことになったと考えられます。

来年は、VTuberタレントが人間のタレントやインフルエンサーと同じ雇用環境が十分保障されていくかどうかという点でも「Xデー」になるといえるでしょう。

にじさんじプロジェクト/ANYCOLOR株式会社

5月、個人タレントの Sayuさんが、ANYCOLOR株式会社より契約解除された にじさんじプロジェクトの英語グループ NIJISANJI EN (新) 元所属タレント ランザー 罪恩 (Zaion LanZa) さんによる告発文書、いわゆる「ザイオン文書」を公開されました。

本文書では、罪恩さんの解雇通知書に書かれた NIJISANJI EN (新) 側の発言を取り上げ、「事実無根のものや脈絡のないものがある」と主張。他にも同グループの運営が「晒し行為やハラスメントなどに対しては、最低限のサポートであった」と主張されております。

この「ザイオン文書」公開により、同プロジェクト及び ANYCOLOR社への猛烈な“ブラック企業 (Black Company)”批判が海外を中心に巻き起こり、英語圏を中心に信用を失い、同社の海外事業は今年大きく後退いたしました。

同社は今年、大甘に見ても“問題で埋め尽くされた1年”であったことは否定し難いでしょう。(バーチャル・タレント・アカデミー (VTA) における所属者除籍を含む) 多くの卒業・引退者を出し、相次ぐ不祥事への謝罪や対応が十分行われた形跡は見られず、12月下旬開催の「にじさんじフェス 2023」などのイベントでは混乱が数多く寄せられるなど、枚挙にいとまがありません。

所属タレントや視聴者・ファンを軽視した姿勢、将来に向けた投資・成長戦略の欠如、そして他社・他事務所・グループをも誹謗中傷するファンコミュニティーの実態表面化と、それを業界全体のために根絶するという姿勢を怠り、今日まで来てしまった結果、国内外で大きく信用を失うことになったのは否定出来ません。

「タレントや現地に目を向けず、目先の利益至上主義や他者への蔑み・蹴落としに固執し続けることは、精神の破綻へと近づいていく」

現時点において、同社に「Xデー」を切り開く資質は見受けられないと言わざるを得ないでしょう。

「Xデー」が見せてくれる景色

大坂さんが「Xデー」を提唱された2019年前半は、ゲーム部プロジェクトを巡る問題が大きくクローズアップされた一方、業界黎明期を支えてきたソロタレントの投稿動画から、事務所・グループ所属タレントによる配信へとトレンドが移行する過渡期にありました。

それから5年。この間、ホロライブプロダクションの国内外での爆発的人気拡大や にじさんじプロジェクトの伸長により、2022年頃までは両者を中心としてきたと目される時期もありましたが、近年は国内外、特に前述のような海外の事務所・グループ・企業が頭角を現してきたことで、「Xデー」を迎える2024年は特定の事務所・グループに偏ることのない百花繚乱の隆盛が期待されます。

果たして2024年の「Xデー」は、VTuber視聴者・ファンの皆様にどのような景色を見せてくれるでしょうか。

(P2y.jp 管理代表者「2号さん (仮)」/バーチャル・メタバース・VTuber情報)

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