VTuber「ブーム」という宴のあと – 文化という次のステージへ

VTuber「ブーム」という宴のあと – 文化という次のステージへ

終焉を迎えた?VTuber「ブーム」

近日、バーチャルYouTuber (VTuber)ブームは終わりを迎えたとする議論がネット上にて力を増しつつある。

実際、それを裏付ける代表的な事例は既に揃っている。

例えばVTuberのトップを走る「キズナアイ」の動画再生回数はHIKAKIN氏のようなリアルYouTuberのトップクラスとは比較にもならない「数万再生」水準にまで落ち込む動画も目立ちつつあり、様々な舞台へ活躍の場を広げている好調さとは裏腹に、原点である「バーチャルYouTuberとしての活動 (≠VTuberとしての広範囲の活動)は明らかに飽きられ、支持を失っている」ことが窺える。

参入障壁が低くなったことで個人・企業を問わない生半可な参入や粗製乱造ともいえる事態を招き、瞬く間にレッドオーシャン化しているのも、かつて米国のゲーム市場を壊滅状態に追い込んだ「アタリショック」や「ゆるキャラブーム」などに倣って「VTuberブームの終焉」を印象付けているのではないかとする意見もある。

アタリショック、ゆるキャラブームなどと同じであるという見方は説得力があるし、多くの皆さんも考えるところ。それに倣えば「VTuberブームは終焉を迎えた」と判断してもよいのかもしれない。

そしてそれは「ブームという宴が終わり、新たな段階に入り始めた」ことも意味するかもしれない (これについては第3項で後述する)。

コア層のみの依存=一般における「終焉」か

ここでは「ニコニコ動画の衰退局面が明確になる前夜に近い」という見方を提示してみたい。

今日ニコニコ動画が衰退した理由としては、運営者ドワンゴ側の不誠実な姿勢だけでなく「ユーザーの固定化」とそれに伴う「人気動画の過度なコア化」も大きいと言われる。

ニコニコ動画では他の動画プラットフォームとは異なり、東方Projectという作品やゲイビデオの映像を使用した動画が際立った人気を集めるなど、独特のコアユーザー層を形成してきた経緯があり、かつてはそれらが強力にニコニコ動画を支える原動力となっていた。当初は初音ミクなどもそうしたニコニコ動画の土壌が有利に働きブレイクする足がかりを掴んだように思える。

しかし一方でこれらあくまで「亜流・カオス」であったものを前面に押し出したため、より一般に広く許容されやすいコンテンツが育つ土壌からは遠くなってしまい、HIKAKIN氏のようなYouTuberやキズナアイをもその場で生み出すことができなかった。

コア層のみのエコシステムに依存し一般への扉を閉ざすことは、仮にその内側において盛況であっても、広く一般には「終わっているコンテンツ」「存在しない」と同等の扱いと見なされかねない。よって「コア層のみの依存は、一般における終焉」とも考えられないだろうか。

初音ミクと同時期にニコニコ動画で人気を博したアイドルマスターの落日、コア層偏重が市場そのものを失わせたシューティングゲームなどもその一例であり、世のコンテンツ制作者における重い教訓として今も問いかけてくる。コア層依存のエコシステムでコンテンツを維持していれば存続できると高をくくっていた結果である。

そして今のVTuberブームの終焉は「コア層のみの依存における限界」である一方、「新たなステージへの挑戦」に向けたチャンスではないだろうか。

初音ミクやジムニーが辿り着けた領域への挑戦

初音ミクが世界的成功を収めた背景には、当初主戦場であったニコニコ動画だけに依存せず、積極的に新たな試み、新たなユーザーの獲得へと挑戦し続けたことがある。

現状に安住していればまず無くなることはないし、コア層を囲ってエコシステムを確立しておけば決して幅広い支持を集めなくても安泰なはず。しかし初音ミク擁するクリプトン社などは、新たなステージへと果敢に「攻め続け」挑戦していった。誤解や偏見を払拭し、コア層だけでない多くの人々の支持を集めていった。その先に今の成功があるともいえる。アタリショックやゆるキャラブームの二の舞とはならず「本物」になれたのである。

また自動車で例えるなら「ジムニー」でもあるだろう。

ひたすらに悪路走破性を追求し、愚直に堅実に長く「攻め続けて」きたことが、結果としていわゆる車離れが叫ばれる若者や女性からも注目され、今日の歴史的大ヒットへとつながっている。ジャンルは異なるものの、初音ミクが辿り着いたのと同じ領域の「本物」となったのである。

そしてこの「攻め続ける」という言葉は「おめがシスターズ (おめシス)」のおめがレイが発した言葉でもある。

おめシスは近年のVTuberのトレンドとは一線を画し、検証動画などYouTuberとしての原点である活動に重きを置くストイックさが「おめシスはいいぞ」と根強い支持を集めている。

チャンネル登録者数がいち早く増えるような一時のブーム的なものではなく、愚直に堅実に長く続け、一歩一歩進んでいくその姿勢は、VTuberブームを終えて次のステージへ踏み出す上での一つの答えなのかもしれない。

「ブームの終焉」は「本物」への旅路の始まり

ひたすらに、愚直に堅実に。

こうして「攻め続ける」ことこそ「VTuberブームの終焉」でVTuberそのものが滅びず「文化」としての新たなステージへと飛躍していくための鍵ではないだろうか。

ブームから文化へ。「本物」への旅路。

挑戦は今、始まったばかりだ。

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