苦境のVTuber四天王 来年への展望見通せず

2019年 (平成31年/令和元年) はバーチャルYouTuber (VTuber) 業界を黎明期に牽引し “四天王” とも称された「キズナアイ」「輝夜月」「ミライアカリ」「電脳少女シロ」(「バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん」は引退) の苦境が表面化した一年であった。

平成最後の年、そして令和最初の年である2019年。わずか2年前、この業界を一気に花開かせた「先駆者たち」のこの一年を振り返る。

バーチャルYouTuber (VTuber)「四天王」の5名 (画像:XR-HUB)

キズナアイ…失ったもの、あまりにも大きく

“四天王” の顔として、VTuberの “親分” と呼ばれていた者として。今年最も多くのものを失う結果となったのは最大の先駆者であるキズナアイだろう。

哀しみのキズナアイ 無為無策が招いた末路

Activ8 キズナアイ巡る問題「事実上のゼロ回答」で幕引きの懸念

まず直面したのは「深刻な動画再生数の低迷」。「動画から生放送へ」というトレンドの変遷もあり既に2018年 (平成30年) の時点でその傾向は顕著に現れていたものの、抜本的対策が講じられた跡は特に見られず、人々を惹きつける「面白さ」というエンターテイメント性の停滞は運営元Activ8の実力不足をも露呈する結果となった。

そして最もキズナアイを窮地に追い込んだのは、中国語版やActiv8に起因する「様々な問題」が立て続けに引き起こされた事である。しかも12月22日現在、Activ8は十分な説明責任を果たさぬまま事実上問題を放置、この年末にまで至っている。

最悪の選択を選び続け、多くの人々に見せたくないものを嫌になるほど見せ続けた。先駆者でありながらVTuberとしての活動という “本業” を霞ませるほどの問題と対応のまずさが、今日の満身創痍の姿へと繋がっている。ボイスモデル複数化に伴いこれまでにないファンを獲得してはいるものの、それ以上に離れた人々は多いように映る。

失ったものは、あまりにも大きい。

輝夜月…動画公開鈍化、スタジオ終了の意味

そのハイテンションなキャラクターで一躍キズナアイに続く人気を獲得した輝夜月

今年前半は日清との大型コラボが話題を集めるなど好調であったが、以降は動画公開ペースが鈍化。後にクリエイティブスタジオ「THE MOON STUDIO」の終了がアナウンスされることになる。

これらはキズナアイの事例とは逆に「何らかの表に出ない事情」による活動の見直しが行われているものとも考えられる。1stアルバムリリースをはじめ活動自体は続いていることから今後は動画より音楽活動にシフトしていく可能性もある。だが動画公開鈍化やスタジオ終了の影響は大きく、かつてのような存在感はうかがいにくい状況である。

ミライアカリ…自然低迷、ENTUM終了も

良くも悪くも「自然に低迷するに至った」という表現になってしまうのだろうか。

ミライアカリなど所属のVTuber事務所「ENTUM (エンタム)」活動終了

ミライアカリは今年一年、特にこれといった問題や炎上が発生したというわけではなかった。堅実であったと言えるかもしれないが、一方で特に際立った活躍が見受けられたかと言えば…正直厳しいものがあるのかもしれない。「アニメ娘エイレーン」によるプロデュースの頃と比べ、自由度や面白さという点で停滞しているようにも映るからだ。

そして自身が顔を務めるVTuber事務所「ENTUM (エンタム)」の活動終了は、黎明期に生まれた “四天王” 所属の事務所が幕を閉じるという、昨今のVTuber業界のトレンドの変化を象徴するような出来事の1つとして大きな関心を集めた。個性的な面々が揃っていたENTUMの終了はVTuber業界の変化を象徴する出来事の1つでもあるように思える。

電脳少女シロ… ガリベンガーVと、アイドル部

「今年の “四天王” の顔は電脳少女シロだ」

もし後述する .LIVE アイドル部を巡る問題が無ければ、電脳少女シロは今年特に地上波で活躍したVTuberの1人としてこのように呼ばれてたかもしれない。

今年の電脳少女シロと言えば、テレビ朝日のテレビ番組「超人女子戦士 ガリベンガーV」につきるだろう。番組としての面白さもあって放送開始後の反響は大きく、地上波での成功を掴む。12月22日現在も放送中であり、YouTubeでの生放送配信やリアルイベントなど話題性も尽きない。よって一見何事もなく来ているように見える。

しかし電脳少女シロが所属するVTuber事務所「.LIVE (どっとライブ)」と内部ユニット「アイドル部」を巡る問題が表面化。運営元アップランドの対応の不手際も重なり泥沼化の様相を見せ、「夜桜たま」「猫乃木もち」の2名が契約解除となる事態にまで発展、.LIVEの顔であったアイドル部が事実上 “崩壊” するに至った。

.LIVE アイドル部の問題はなぜ収まらないのか

この問題は今年のVTuber業界全体においてもキズナアイを巡る一連の問題に並ぶ深刻な事件であり、12月22日現在も一向に解消されずこのまま越年する公算が強まっている。あくまでアイドル部サイドの問題ではあるものの所属VTuberは「ガリベンガーV」のレギュラーとして出演していることに加え、これら問題はアップランド側の体質・姿勢に起因するものでもある事から、今後の電脳少女シロへの影響も予断を許さない状況にある。

余談だが、夏公開の新3Dモデルが賛否を呼んでいるのも不安要素の1つといえよう。


この一年で「動画公開から生放送配信へ」とVTuber業界のトレンドは大きく変化した。

上記のような運営体制の迷走によるイメージ低下や動画の内容そのものの「面白さ」といったエンターテイメント性で、今やかつて “四天王” と囃された者たちは大きく遅れをとる結果となっている。

今年大きな躍進を遂げた「ホロライブプロダクション」や「にじさんじ」とは反対に、徐々に先駆者としての輝きをも見失っていった。そこに様々な問題が追い討ちを掛ける形となり、このままでは来年への展望すら見通せない窮地に陥りつつあるようにも映る。

もはや “四天王” と呼ばれる事も無くなりつつある、VTuberという新たな地平を切り拓いた先駆者たち。このまま輝きを失っていってしまうのだろうか、それとも…

唄を忘れた カナリヤは
象牙の船に 銀の櫂
月夜の海に 浮べれば
忘れた唄を おもいだす

童謡「かなりや」より

かつての “四天王” は、再び輝けるだろうか。

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