任天堂のゲーム機「Nintendo Switch (ニンテンドースイッチ) 」は、同社が1996年 (平成8年) の「NINTENDO64 (ニンテンドウ64/ロクヨン) 」以降決して果たせなかった…おそらくこの先も無理だろうと思われていた一つの目標を “いつの間にか” 成し遂げた。
それはいわゆる「プレステらしいゲーム」の充実。ソニーのゲーム機「プレイステーション (プレステ) 」で主に発売されロクヨン以降の任天堂のゲーム機ではまずリリースされることが無いと思われていたゲームが、なぜか今世代のNintendo Switchには増えているのである。しかも任天堂が積極的にソフトメーカー各社に”お願い”に伺ったわけではないだろうにも関わらずだ。
「プレステらしいゲーム」とは
皆さんは「プレステらしいゲーム」と言われてどの様なゲームを思い浮かべるだろうか。
それは1997年 (平成9年) に発売された「ファイナルファンタジーⅦ」を皮切りに「美麗なグラフィックやコアなゲーム性を追い求めたハイクオリティなゲーム」というイメージが一つの大きなアイコンとなっているように思う。
さらにその後 (当時はオタク向けのニッチなジャンルと言われていた) 恋愛系やアニメーションを全面に押し出したゲームもプレステで多数リリースされたことで、これらもまたプレステのもう一つの強みとしてラインナップされるようになっていった。「FFⅦ」などの大作と比べれば絶対的販売本数は少ないのだが、ニッチな要求をしっかり汲み上げることに成功していたのである。
これらは主にプレステやセガサターン、Xboxといった高性能を指向するゲーム機において多数リリースされたが、任天堂のゲーム機ではロクヨン以降殆ど投入されることはなかった。ディスクメディアの大容量による美麗なグラフィックはロムカセットでは難しかったことに加え、当時の任天堂ゲーム機にレッテルのように纏わり付いていた「子供向けのイメージ」が大きく影響したこともあるだろう。
「ドラクエとFFがスーファミからプレステに移った」というセンセーショナルな出来事は当時の任天堂をゲーム業界のトップから引きずり降ろすと共に新たなゲームの時代の到来をも予感させるものであったし、この流れを汲んだ「プレステらしいゲーム」が任天堂のゲーム機に投入されにくい流れはWiiの大ヒット以降も根強く続いていた。「任天堂のゲーム機では任天堂のゲーム以外は売れない」というイメージもまた強く影響していたことだろう。
しかしNintendo Switch以降、この流れは明確に変わりつつある。
乙女ゲームがSwitchに”集結”
11月9・10日、任天堂はいわゆる乙女作品の祭典「アニメイトガールズフェスティバル2019」にNintendo Switch (ニンテンドースイッチ) ブースを出展した。
いわゆる”女性版恋愛ゲーム”とも目されてきた「乙女ゲーム」は年々商品力とファンの裾野を拡大してきており、2011年夏にアニメ化され男性ユーザーをも獲得するほどの人気を博した「うたの☆プリンスさまっ♪ (うたプリ)」シリーズなどコア層以外からも注目される存在となってきている。こうした乙女ゲームは従来プレステやPC向けを中心にリリースされるのが定番であったが、昨今Nintendo Switchでのリリースが増えつつあるというのである。
今や乙女ゲームファンの間ではNintendo Switchは欠かせないアイテムの一つともなりつつあるようだ。
アニメ的ゲームがSwitchに”集結”
そして恋愛ゲームやアニメーション要素を強めたゲームもまた、他機種版と共にNintendo Switchでのリリースが増えてきている。
9月26日に発売されたコーエーテクモゲームスの「ライザのアトリエ 〜常闇の女王と秘密の隠れ家〜」はプレステ4、PC (Steam) に加え当初からNintendo Switchにて投入されることを前提に開発された。

本作は発売前から話題を集め、セールス面においても歴代アトリエシリーズと比較して良い結果を残したと言われる。魅力的キャラクターだけでなく技術面での向上など、ゲームとしての本質的面白さが評価されたものとして好意的に受け入れられているようだ。
他機種との差異縮小 ポスト”プレステVita”需要
Nintendo Switchにここまで「プレステらしいゲーム」がリリースされるようになった理由としては、大きく2つが考えられる。
まずは他機種との差異が縮小したことだ。ロクヨン以降の任天堂ゲーム機はコントローラーなどの操作体系の新機軸を強く押し出し、また高画質・高性能を最も優先しないことで 多くの人々にこれまでになかったゲーム体験を送り届けてきた。しかしこれらゲーム機の設計はあまりにも斬新すぎるがゆえにサードメーカーに敬遠される向きもありソフトラインナップの充実に足枷ともなってきた。だがNintendo Switchでは画質・性能面においてもサードメーカーが求める水準を達成しており、それが今日の様々なゲームソフトの充実にも繋がっているといえる。
そしてもう一つはポスト・プレイステーションVita需要だ。これまでプレステシリーズの携帯型ゲーム機はPSPやプレステVitaが用意されており、据置型ゲーム機のプレステ3やプレステ4でのゲーム開発が難しいサードメーカーにとっての大きな受け皿となっていた。しかしソニーは現在プレステVitaの後継機種を見送り事実上携帯型ゲーム機から撤退した形となっている。このことでプレステVitaに相当する「ちょうどよい」ゲーム機プラットフォームが求められた結果としてNintendo Switchが注目され「プレステらしいゲーム」のリリースが相次いでいるのである。
他にもNintendo Switchではインディーズゲームを展開するプラットフォームとしての支持も拡大し続けているほか、他プラットフォームと比較して表現面での規制が概ね寛容的であるとする見方からチャレンジングなゲームも惹き付けるようである。
Switchが見せてくれる新たな景色
任天堂は今回のNintendo Switch世代においてこれまで据置型ゲーム機と携帯型ゲーム機の2つに分けて展開してきた初代ゲームボーイ以降の体制を30年ぶりに改めた。今後はNintendo Switchという据置型も携帯型も内包した一本足のプラットフォームによってゲームを展開していく覚悟を決めたのである。
そんなNintendo Switchは今や従来の任天堂が得意としてきたゲームはもちろん、プレステらしいゲームからインディーズゲームまでもが一堂に会する舞台となりつつある。今後は他機種は勿論、スマホなど新たな勢力とも切磋琢磨の競争をしながら新たな景色を見せてくれることを期待したい。