キズナアイは「終わる」のか

いつか無くなるものを求めちゃいかんのだよ。
無くなるものは、求めるためではなく、
そいつで遊ぶために、この世にあるんだからな。

「セフティ・マッチの金の言葉」より

コピーライターの糸井重里氏が主宰する「ほぼ日刊イトイ新聞」が1998年 (平成10年) 6月6日の開設以降、一貫してトップページに掲げ続けているこの言葉。

世の中のあらゆるコンテンツに触れる全ての人々にとって、この言葉の意味は限りなく重いものがあるだろう。どれほど盤石と思えるモノやコトも、明日には無くなっているかもしれない。任天堂の故・山内溥元社長も「明日にはゲーム市場が無くなっているかもしれない」という思いを常に抱いて経営に臨んでいたという逸話がある。つい1分前まで高い好感度を向けていた有名人がたった一つのゴシップ報道で地に落ちる事も茶飯事だ。それがいつ、どこで起きるかなど誰も予想出来ない。一年先のこと、来月のこと、明日のことなど分からない。世の中とはそういうものだといえるだろう。

完全にリスク回避を担保する事など不可能である以上、常日頃からあらゆる可能性を想定内として、実際に準備が出来ていないにしても一定の覚悟くらいはしておくべきかもしれない。あのコンテンツは危うい、その企業は密かに窮しているといった信憑性に疑問符を抱きかねないゴシップの中にも、フェイクニュースに紛れて時折真実が記されていることも少なからずあり得る。結局のところ「当事者でない」以上、断定は出来ないのだ。

これは昨今のバーチャルYouTuber (VTuber)「キズナアイ」を巡る問題が表面化する前より、キズナアイを主宰するActiv8社に対するリスク情報等を独自に察知し事前に準備してきた1つの読みもの。

もはやトップではない

一体キズナアイとActiv8、upd8は、この一年何をしていたのか

まるで白黒のヒトラーの演説映像に出てきそうな煽動的発言かつ、場合によっては炎上しかねない表現だ。実際Activ8とVTuber支援プロジェクト「upd8」は様々な事業を行ってきているだろうし、全くもって失礼な言い草だ。

だがこの一年でアップランド社の.LIVEが地上波テレビ番組「超人女子戦士 ガリベンガーV」で、 カバー社のホロライブが中国Bilibili (ビリビリ) 等で目に見えた成功を収めつつある事に比べると、Activ8とupd8はキズナアイを擁するとは思えないほど影が薄く、もはやVTuberムーブメントを牽引する筆頭的存在ではなくなっている。

特にテレビ朝日系列「超人女子戦士 ガリベンガーV」 の成功は、キズナアイが顔となっていたVTuberムーブメントの構図にパラダイムシフトを巻き起こし、わずか半年程で情勢が大きく入れ替わった。かつて “四天王” と称された一角の「電脳少女シロ」が昨今のキズナアイを上回る勢いを得るに至り、シロを主宰するアップランドの.LIVEと後輩VTuber「アイドル部」もキズナアイとは異なるスタイルを提案し成功を収めた。

勿論upd8の中にもYuNi (ユニ) やおめがシスターズ (おめシス) など類まれなる実力を存分に発揮して成功を収めているVTuberは少なくない。しかしYuNiやおめシスは自らの実力・セルフプロデュースにより躍進し続けている向きが強く、仮にupd8所属でなくともそれは変わらないだろう。

そしてキズナアイに限れば2019年 (令和元年) 8月現在、YouTubeチャンネル「A.I. Channel」における動画再生回数は2017年 (平成29年) 後半のブレイク時から大きく低下し、10万再生以下を記録することも珍しくなくなっている。これは後発の人気VTuberと比較しても決して高くはなく、ましてやHIKAKIN (ヒカキン) 氏などのリアルYouTuberとは全く比べられるものではなくなっている。

しかもこの状況は決してここ最近になって初めて現れたものではない。既に2018年 (平成30年) 内には企画内容のマンネリ化や視聴者数の減少が目に見えて現れていたが、キズナアイとActiv8はこれらに対する危機意識の欠如と、社内のお家騒動などに暇を費やし、事実上何もしてこなかった。また電脳少女シロの「ガリベンガーV」と対象的に日本テレビ系列のキズナアイを冠する番組や企画は軒並み失敗に終わり、Activ8の番組展開・プロデュース能力の致命的欠如を世間に露呈した。

キズナアイがテレビ局から”歓迎”された理由 – 時代の変化と既存メディアを味方にした意義

それらが全て、昨今のキズナアイを巡る問題へもつながっていくことになる。

初音ミクのクリプトンから何を学んだのか

キズナアイは初音ミク二世、または憧れの初音ミクの背中を追う存在として挙げられることがある。初音ミクがなぜ成功に至ったかを綿密に調べ上げ構築されたようなそのプロダクトから、初音ミクの後継者候補のように称されたりした向きもある。

ここP2y.jp の運営代表はかつて初音ミクを擁するクリプトン・フューチャー・メディア (クリプトン社) の伊藤博之社長と何度か顔合わせをする機会に恵まれ、同社の初音ミクとボカロムーブメント、そしてそれらの未来に対する考えなどに触れてきた。伊藤社長は初音ミクが単なる自社の所有物ではなく世界中の多くの人々から愛される存在となっていること、一時のブームではなく皆さんと一緒に育て上げていくことなどを深く理解しており、目先の利益に流れず、2007年 (平成19年) 末に立て続けに発生したドワンゴなどとの係争事案でも会社・社員・コンテンツを全力で守り抜き、大企業や反社会的勢力に飲み込まれるような向きも阻止した。

今日の「文化として定着した初音ミク」の12年というクロニクルは、こうしたクリプトンの一貫した姿勢から始まったのだ。

しかしキズナアイを主宰するActiv8は初音ミクの表面上のアイコンは学べても、クリプトンの姿勢からは学ばなかったのだろう。当初の志を忘れ、単なる自社の所有物として世界中の多くの人々から愛される存在となっていることを理解せず、目先の利益や欲望に駆られ、昨今はお家騒動や反社会的勢力に飲み込まれるような向きにも陥りつつある。

駆り立てるのは野心と欲望、横たわるのは犬と豚。

タクティクス・オウガより

クリプトンあっての初音ミク」という姿。Activ8はそこから学ぶのを怠り、結果的にクリプトンのようにはなれなかったのである。

決断が迫る

8月18日現在、キズナアイを巡る一連の問題はますます拡大の一途をたどっている。Activ8が発表した声明は事の本質から人々の目をそらそうと仕向けるようなもので、疑問や批判に対する回答としては全く機能していない。むしろ「ボイスモデル」「分人」など、同社がキズナアイの展開において掲げていたコンセプトを自ら揺るがす新ワードは、ただただ人々の不信や批判を掻き立てるものである。

Activ8 キズナアイを巡る問題に関する声明をbilibiliで発表 日本では一切の説明なし

キズナアイ オリジナル版のフェードアウトを示唆か

中国語版キズナアイ 京アニ放火殺人事件に絡め視聴者を批判か

すでにActiv8は反社会的勢力系の影響があるのではという疑惑 (信憑性未確定情報) など、 体制的にも不可逆的な状況にある可能性も囁かれる。それまでのキズナアイに代わり中国語版キズナアイ (通称名・紗利雅 (サーリア) ) を中心とした展開を進めるのではないかとして、当初のキズナアイのコンセプトは今後消滅するのではないかとの見方もある。

【信憑性未確定情報】キズナアイ運営のActiv8 反社会的勢力の影響下にある可能性が浮上

Activ8に残された選択肢は3つ。1つ目は「当初のキズナアイを取り戻す」こと。2つ目は「現状の路線を批判覚悟で強行する」こと。そして3つ目は「キズナアイをあきらめる」ことだ。

いつか無くなるものを求めちゃいかんのだよ。
無くなるものは、求めるためではなく、
そいつで遊ぶために、この世にあるんだからな。

「セフティ・マッチの金の言葉」より

決断が迫っている。

(文:アポロ船長)

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