キズナアイ “物理的分裂”から漂う「不気味さ」の正体

かつてバーチャルYouTuber (VTuber) の象徴的存在とまで目されたキズナアイがいわゆる「分裂」を巡る様々な問題によって第一線から退いて以降、それら「分裂」版同士が揃って登場する動画を頻繁に公開している。

運営元であるActiv8はこれらを「画期的試み」であり「面白い」ものであると考えているのかもしれない。演者/ボイスモデルの「分裂」に加え、物理的にも「分裂」し、おそらく一連の問題によって失ったであろうコラボ先の代わりとして「分裂」版同士の寸劇を見せるしかないという事情もあるのかもしれない。

しかし、「分裂」問題によって離れたかつての視聴者には、こうした「物理的分裂」の強引な展開に「不気味さ」を覚える方も多く、SNS上ではこれら昨今のキズナアイの動向を知った元視聴者が完全にキズナアイを見限るような発言も見られる模様だ。オリジナル版ボイスモデルの所属事務所退社およびYouTuberとしての独立もキッカケとなり、これらをもってキズナアイから距離を置く者も後を絶たないようだ。

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今のキズナアイの「不気味」さ

キズナアイ (無印版/#版/*版)

今のキズナアイを「不気味」な何かに変えてしまったのは、演者/ボイスモデルの「分裂」だけでなく、物理的に3DCGモデルが「分裂」してしまった事も大きいのではと思われる。

#版が媚び気味の表情を、*版が快活な表情を見せてくる。全て同じキズナアイだとしながら、そのキャラクターは「別人」である。そしてそれらを「偽物」と判断した視聴者が多かったという事実は、これら「物理的分裂」動画の再生数が従来通り低いという結果から窺える事である。新型コロナウイルス感染症 (武漢肺炎/COVID-19) の影響を受けた「在宅需要」を旺盛に取り込み貪欲に活動の幅を広げる他のVTuberが躍進を果たす中、依然再生数が伸び悩んでいるという事実もそこにある。

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キズナアイ (中国語版)

同じ名前、同じ姿形であればキャラクター性のコアを成す部分を変えてもよいとして実践した一種の社会実験は、2010年 (平成22年) に起きた「アイドルマスター9.18事件」などによって多くの消費者からノーを突き付けられたものだ。パラレルワールドを言い分に同じ名前、同じキャラクターとはとても相容れない言動を嫌になるほど見せつけられる。それは熱心なコアファンほど失望が大きく、人格を出し入れして楽しんでいるかのような異様な人形遊びのように不気味で、嫌悪感をも覚えざるを得ないものでもあった。その結果、初代系アイドルマスターはコンテンツ産業の前線から姿を消していった。

かつての視聴者が「無関心」に

今のキズナアイの置かれた状況も、まさにそうした「不気味」さを纏いつつある。「分裂」版それぞれが人格的にも物理的にも「別人」のキズナアイというキャラクターを演じれば演じるほど、胸の底からの負の感情を蓄積させるかのように作用し、終いにはキズナアイの姿や「分裂」版のボイスを目に耳にするだけでも否定的感情を覚えるようになる。それは「分裂」問題によって今後を案じていた視聴者を「無関心」へと変えるものであり、現実のものとなりつつある。

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その結果、もはやオリジナル版ボイスモデルの有無に関わらず「もうキズナアイには興味がない」と考える人々が相次いでいるのではないだろうか。これはオリジナル版ボイスモデルの所属事務所退社が明らかになる以前から見られる傾向であり、その後は一層そうした傾向を強めているものと思われる。

最後まで信じ続けてきた視聴者も、離れつつある。

もしかしたら…更なる「分裂」版が告知なしで加わり、もしくは既に加わっていて、動画や生放送配信等を「別人」「偽物」が演じているのではないか…。

そうした「不信」「疑心暗鬼」「猜疑心」が常に付きまとう事になった現在のキズナアイを、もうこれ以上信じられなくなってしまったのだ。

孤独な「行軍」の先にあるもの

Activ8はキズナアイの一連の「分裂」路線を確固として推進していく方針のようだ。

質問者:最近は英語を話すバーチャルYouTuberも見られます。オリジナルのキズナアイは日本語を話していましたが、今では中国語も話します。今後、多言語キャラクターを増やす予定はありますか?

大坂氏:はい、私達はそれを増やすべきだと思います。元々は皆とつながりたいというコンセプトがあり、そのフォーマットはバーチャルタレントと呼ばれ海外のファンはバーチャルな存在と呼んでいますが、これは技術的な制限が無いからだと思います。私はバーチャルタレントが境界を打ち破る意味があると強く感じています。素顔を出したくないが、自らコンテンツを作り発信したい人にアバターを与えることで、バーチャルな配信者も非常に重要だと思います。そうした意味でこれは素晴らしい事です。キズナアイは人間に制約はなく、人間によって生み出された技術にも制限がなく、未来は無限であることを示しています。それが私がそのようなコンテンツを制作する理由であり、私の情熱の源です。海外の人々とつながるには言葉の壁があり、これを解決する具体的な方法はありませんが、その地域のコンテンツの言語へと最適化する必要があると私は思います。勿論、言語以外の方法でつながる方法がある場合は間違いなくその方法を使用します。

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それは既に多くの視聴者を失い、新着動画は伸び悩み、SNSでの発信は広まらず、VTuber業界全体における存在感も目に見えなくなりつつある中でも、最後の最後にトンネルの出口で報われると信じてこの孤独な行軍を続けるという悲壮な「覚悟」なのだろうか。それとも未だに「分裂」路線にノーを突き付けた視聴者側よりも遥かに先を見ているという「驕り」なのだろうか。

今や世界的支持を集めるに至った「初音ミク」を有するクリプトンは現在では当たり前のものとなった「CGM (消費者生成メディア) 時代の到来」を見据え、またファンの声に常に耳を傾ける謙虚な姿勢を持って方向性を模索した結果、自社利益の追及のみにとどまらない変革を様々な分野へともたらした。同社は現在も謙虚に、むしろより地元・北海道への密着を強めるなど方向性を模索し続けている。

SNOW MIKU 2020
SNOW MIKU 2020

キズナアイは初音ミクのような存在へとなれる可能性があった。しかし今やその道は絶たれつつあり、慕ってきた周りの者達も離れ、「1人ぼっちの2人 (歌:坂本九)」ならぬ「分裂」版同士の孤独な行軍に旅立ち音信不通となっているように映る。


この行軍は「八甲田山」なのか。それとも「楽園」への道程なのか。キズナアイは今日も、孤独に歩むことになる。

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