キズナアイがテレビ局から”歓迎”された理由 – 時代の変化と既存メディアを味方にした意義

テレビ局に大人気のVTuber

VTuber(バーチャルYouTuber)「キズナアイ」はそれまでのファンや一般YouTube視聴者だけでなく、既存メディア…特にNHKや日本テレビをはじめとするテレビ局に対し”大人気”となっている。

のばん組

BS日テレ

中でも日本テレビはBS日テレにてキズナアイの冠番組を始めたり、ズムサタやnews zeroといった同局の看板番組にキズナアイを招いたりと異様な熱の入れようであり、あまりの厚遇ぶりに裏に何かがあるのではないかと穿った見方すらしてしまいそうになるほどだ。

さらに近年はキズナアイだけでなく、他の著名なVTuberを招いたり特番やバラエティー番組のゲストに据えたりといった光景も局を問わず目立つようになった。ミライアカリがNHKの特番に呼ばれたり、お笑いタレントの小峠英二電脳少女シロにツッコミを入れたりといった番組が、今や当たり前のように放送されている。

超人女子とズケ女プレゼンツ『超人女子戦士 ガリベンガーV』

テレビ朝日

ミライアカリがNHKのeスポーツ番組のリポーターに!

NHK

こうした”生身の人間とバーチャルタレントの掛け合い“というのは番組制作の現場にとって極めて魅力的かつ可能性を感じるテーマなのだろうと考えられるし、実際に面白い。ゆえに既存メディア…特にテレビ局から熱視線を浴びているともいえるかもしれない。番組制作の現場に若い人材が浸透してきている影響というのもあるのではないだろうか。

過去、メディアに否定的に取り上げられがちであったポップカルチャー…所謂「オタク文化的で気持ち悪い」というような誤解や偏見を持たない世代がメディアの現場に入るようになり、徐々に肯定的な意見が占めるようになった結果が今日のVTuberに対するテレビ局からの熱視線にあらわれているようにも見える。

しかし、もしキズナアイが今から12年前…ちょうど初音ミクが登場した頃にデビューしていたのなら、今日のようなテレビ局からの視線は180度逆の方向を向いていたかもしれない。

オタクの玩具という”誤解”や”偏見”

初音ミクがクリプトンから発売されて間もない2007年10月14日放送のTBS「アッコにおまかせ!」にてテレビ番組としてはほぼ初めて初音ミクが特集されることになった。

ところが、その内容があまりにも”気持ち悪いオタクの玩具“として初音ミクやそのユーザーを揶揄するものであったため、放送後にネット上で批判が相次ぐ事態となった。

TBS「アッコにおまかせ」の初音ミク特集に批判相次ぐ

ITmedia News

平成初期の宮崎勤事件に端を発した一昔前のオタク像のレッテルとそれを揶揄する論調は2019年現在においては古い価値観ではあるものの、初音ミクが登場した当時はまだ根深いものであったともいえる。

いわばそれまでと異質であるゆえの宿命。任天堂のゲーム機「ニンテンドーDS」や「Wii」もまた異質であるとしてゲーム業界内において大いに懐疑的に見られたが、後の大ヒットと今日のゲーム観へ繋がっていったのを今日では多くの人々が認めている。

初音ミクをはじめとするボカロもDSやWiiと同じように、こうした“誤解”や”偏見”を払拭する不断の努力を重ねていき、今日の世界的成功へと至った。いわば「アッコにおまかせ!」事件によって無名の所から叩き上げられたのなら、今ではこれも一つのキッカケであったのかもしれない。

手を取り合って

そして今日、キズナアイをはじめとするVTuberが広く受け入れられていること。共に育てていこうとする既存メディアの姿勢があること。

これらは過去に初音ミクが”誤解”や”偏見”を払拭する不断の努力をし続けたことが大きいと思える。VTuberを展開する運営元の働きも相当に大きいが、それを根底から支えるポップカルチャーに対する価値観のパラダイムシフトが既存メディアに巻き起こらなかったら、VTuberはこれほどまでテレビ局から引く手あまたとはならなかったかもしれない。

今やテレビなどの既存メディアはポップカルチャーにおいて敵ではなく、手を組んで共に新たな文化を育てていくこ可能性を模索できる段階にまでなった。報道姿勢等々の賛否はともかく、ポップカルチャーに対する姿勢は一変している。

無用に対立したり敵視したりするよりは方向性を同じにして進むほうが意義がある。今こそ手を取り合って、前進していきたいものだ。

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