新型ジムニーへの「支持」が物語るもの

2018年 (平成30年) 7月に発売されたスズキの本格クロスカントリー四輪駆動車「ジムニー (新型 JB64型) / ジムニーシエラ (新型 JB74型)」の人気がとどまることを知らない。

発売直後から自動車メディアだけでなく多くの人々からの関心を集め、 そのスタイルやコンセプトに魅了された一般ユーザーからの発注が激増。スズキが当初想定していた既存のジムニーファン (通称「ジムニスト」) や山間部で作業を行う林業・電力会社従事者、狩猟関係者にとどまらない人気ぶりから、2019年 (令和元年) 8月現在も膨大なバックオーダーを抱える状況が続いている。絶対的な登録台数はスペーシアやハスラーといった他のスズキ車より遥かに少ないものの、独自設計かつ専用の製造ラインが求められるため、十分な供給にはまだまだ時間がかかりそうだ。

今回のジムニーの大ヒット。主に自動車評論家の方々が自動車メディアを中心に様々な分析を行っているものの、それらはあくまで既存の自動車業界側の見方が中心で、実際にジムニーファン「ジムニスト」となって理由を探ったり、購入を検討しようとスズキディーラーへ足を運んだりしているユーザーの声が反映されているものかどうかは疑わしいところもある。そこで P2y.jp 運営代表がこの一年間、実際にジムニー (新型 JB64型 XCグレード) のドライバーとなって一年間を過ごした様子なども盛り込み、多くの人々のジムニーへの「支持」について探っていく。

ジムニー JB64 XC
ジムニー (JB64型 XC)

並々ならぬ羨望の的

正直、ジムニーは一般ドライバー…特に女性や高齢者にとっては所有するに適さない曲者だ。昨今の流行などに左右されない「プロの道具」としての質実剛健とした歴代ジムニーに見られる無骨な設計は、まさに「女子供は黙ってろ」と言わんかのような硬派さを醸し出している。

独自設計の頑強なラダーフレーム、大型トラックやダンプカーも採用する頑丈なリジッドサスペンション (車軸懸架) 、アプローチアングル確保のためのエンジン縦置きFRレイアウト、高い信頼性に基づく副変速機付きパートタイム4WD。乗り心地や乗降性よりも過酷な悪路を走破し帰って来られるのを第一とした「枯れた技術」による古典的メカニズムは、昨今の乗用車ベースのモノコックボディ構造を採用したクロスオーバーSUV (スポーツ多目的車) とは全く異なるポジションにある。

ラダーフレーム車特有の段差での突き上げ、独立懸架サスでないゆえの乗り心地へのマイナス、昨今の軽乗用車に慣れると明らかに狭く家族での日常利用には厳しい車内、舗装路面では利用出来ないパートタイム4WD、アイドリングストップもマイルドハイブリッドも非搭載でカタログ燃費も「街乗り11km/L」とはっきり記されるほどの悪さ、そして技術的にも内装でも取り立てて高級な装備を盛り込んでいるわけではないにも関わらず、メーカー希望小売価格はジムニーで145~184万円、ジムニーシエラでは176~201万円と、昨今メーカーがしのぎを削り豪華な装備が揃う軽スーパーハイトワゴン (N-BOXやスペーシア、タントなど) などと比較しても、悪路走行や山間部での事業従事者ではない多くの一般ドライバーにとっては「割高」「無用の長物」であり選択肢とはなりにくいはずだ。

スズキが当初ジムニーの生産台数を低めに設定していた理由もそこにある。雪道や多少の未舗装路程度であれば同社の人気クロスオーバーSUV「ハスラー」で十分であり、実際にハスラーは記録的大ヒットを果たしている。多くのドライバーにとってそれらジムニーのメカニズムや仕様は、快適性を犠牲にするほど求められているものとは言い難いはずだった。

だが今回フルモデルチェンジを果たしたジムニー (新型 JB64/JB74) は意外や意外、家族層や女性といった新たなユーザーからも注目されているのである。

実際 P2y.jp 運営代表も納車後数カ月の間、街中の駐車場で停まっていると多くの人たち (特に女性) に話し掛けられた。乗っていてどんな感じか、女性が乗る上での不都合はあるか等々、まるで高級車のように羨望の眼差しを向け様々な質問をされる。こうしてわざわざ他人に訊きたくなるほどであるから、いかに今回のジムニーが世間から特別な注目を浴びているのかがうかがえる。

ジムニー JB64型 XC (静岡県道47号 引佐六郎沢線にて撮影)
ジムニー JB64型 XC (静岡県道47号 引佐六郎沢線にて撮影)

ドライバーの静かな「反乱」

今回のジムニーが一般ドライバーから高い注目を集める最大の理由は、前述したような日常使いには不利と思われる要素をも逆に魅力のように変えてしまう「原点回帰のデザイン」「昨今の新車にはないポリシー」にあると思われる。

先代ジムニー (JB23型) は乗用車ライクなスタイルで新たなジムニーらしさを生み出したが、今回のジムニー (JB64型) は20年間作られ続けた先代の熟成を基礎に多くの人々が思い浮かべるジムニーのアイコンである二代目ジムニーと同じクロカンスタイル (車体の四隅を把握しやすいスクエアな車体) を纏ったことで、昨今の軽スーパーハイトワゴンやモノコックボディ構造のクロスオーバーSUVとは異なる、まるでカセットテープやLP盤が再評価されるのと同じような「新しさ」を人々に実感させた。

人間というものは面白い生き物であり、ひとたび一目惚れした相手からはなかなか離れられない。むしろそこに多少の欠点があっても長所のように思えてしまうものだ。歴代ジムニーは前述したような数多の欠点を抱えながらも、それを補って余りある悪路走破性やデザイン、ジムニーブランドという独自の世界観が受け入れられ、熱狂的なジムニーファン「ジムニスト」を生み出してきた。今回のジムニーは「原点回帰のデザイン」が呼び水となり、そうしたジムニーの魅力が新たな層へと広がっていくことになった。

そしてそれは背が高くスライドドアを備えた軽や流線型の艶かしいクロスオーバーSUVが氾濫する昨今の新車市場の風潮に対する、一部ドライバーからの静かなる「反乱」なのではないかとも思える。

ここ10年ほどの間に、日本国内の普通車販売台数の減少と軽乗用車の販売台数の増加が進んでいる。ドライバーの可処分所得伸び悩みなどに対する生活防衛が最大の理由と思われるが、その一方で自動車メーカーが海外市場での競争力強化を目的に車体やプラットフォームのグローバル化を進めたことで日本国内の道路・生活事情に寄り添った普通車を減らし続けていることも大きな一因と考えられる。普通車はコンパクトクラスでありながらも3ナンバーサイズへと「肥大化」し、かつて大衆車・ライトと目された車種 (シビック、RAV4など) は名ばかりにサイズだけでなく安全装備の充実を名目に価格までも立派に高騰している。道路事情は大きく変わっていないのに国内ドライバーのことを考えた新車は減り続け、今や日産のようにわずか3車種「ノート」「セレナ」「エクストレイル」で販売台数を回しているメーカーもあるほどだ。

これらメーカーの姿勢に対して自動車評論家や経済評論家は「グローバルでのメーカーの競争のために国内ドライバーは我慢せよ」と言わんかのような論評を張っていることがあるが、正直国内ドライバーにとって知ったことではない話だ。山間部の悪路以前に自宅の駐車場や近所の狭い道にも不釣りあいなのに、メーカーのグローバル展開のために巨大化したお高い新車を買えと言われて誰が納得するというのだろうか。

そうした国内ドライバーの静かな「反乱」が、普通車販売台数の減少と軽乗用車の販売台数の増加という形で現れている。そしてこうした状況下で登場し、多くの人々からの注目を集めたのが新型ジムニーだと考えると、ジムニーは今や昨今のメーカーの姿勢や国内軽視の新車に対する「反乱」の象徴的存在でもあるように思えてくる。

ジムニーは今回、低燃費のためのアイドリングストップ機能やクロスオーバーSUVに見られるモノコックボディ構造といったトレンドを何の戸惑いもなく「スルー」した。海外が主力市場となるジムニーシエラも3ナンバーサイズに拡大するようなことはせず、あくまで軽のジムニーをベースに1.5Lエンジンとオーバーフェンダーを装備するにとどめている。故障リスクや修理コストを高める比較的新しいメカニズムを導入せず、昨今の流行などに左右されない「プロの道具」であり続けること。安直に一般ドライバー向けに媚びてコンセプトを歪め別物になるよりも、ジムニーはジムニーであり続ける道を選んだ。

この「男気」と言ってもよい「潔さ」。利潤を追求する企業のいち工業製品とは思えないほどの「昨今の新車にはないポリシー」。これらに対し、まさに惚れ込むほどに「カッコいい」と思わないだろうか。 そしてそんな日常を変えてくれそうな「道具」が日頃利用する車として145万円から手に入るというのなら、 ぜひ自分も所有してみたいと思わないだろうか。

プロ向けに作られた道具は、カッコいい。むしろ一般ユーザーに安易に媚びていないからこそ注目され、一般ユーザーにも支持される。多少の欠点はご愛嬌、むしろそれすら愛おしい。だからこそ愛着がわき、長く長く相棒となってくれるだろう。ジムニーはまさにそうした存在だといえるだろう。



今回ジムニーがジムニストや山間部事業従事者だけでなく多くの人々の支持を集めたのは、グローバル競争によって国内ドライバーの方向を見た新車が減少し、不必要な装備や価格高騰が氾濫する昨今の自動車市場に対するアンチテーゼとして見直された「本物」であったからではないかと思える。

もしそうであれば、現在のジムニームーブメントは一過性のものとして早々に終わることはないだろう。各メーカーが国内ドライバーを見た新車開発を軽視すればするほど、ジムニーなどの「道具」「本物」を指向する車種が注目を浴び続けることになるだろう。

任天堂で「ゲームボーイ」などを開発したことで知られる故・横井軍平氏は「枯れた技術の水平思考」という言葉を残している。最新技術ではなく既に広く普及しコスト的にも低廉化した “枯れた” 技術を異なる発想をもとに用いて新たなイノベーションを生み出すことを意味する。この言葉がジムニーに当てはまるかは疑問もあるが、今日の乗用車製造において見捨てられてきた “枯れたメカニズム” を頑なに堅持し進化させてきたジムニーは、きっと今回新たに獲得したドライバーによって新たな景色を見せてくれることだろう。

(文:アポロ船長)

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